
【介護離職防止】新人が初めての「お看取り」で孤立しないために。悲しみを「乗り越える」のではなく「分かち合う」組織の作り方
この記事を読んでほしい方
社会福祉法人・医療法人などで新卒採用・教育を担当されている方
新人職員が「お看取り」の悲しみを一人で抱え込み、離職してしまうことを防ぎたい方
現場でのグリーフケア(悲嘆のケア)の導入を検討している施設長・事務局の方
所要時間:約6分
日々の採用活動、そして施設運営、本当にお疲れ様です。
ご利用者様の「生きる」を支え、そして人生の「最期の瞬間」まで温かく寄り添い続ける皆様の尊いお仕事に、心から敬意を表します。いつもありがとうございます。
介護のお仕事において、避けて通れないのが「ご利用者様とのお別れ(お看取り)」です。
ベテラン職員の皆様にとっても、長く過ごされた方との別れは辛いものです。ましてや、社会に出たばかりの新人にとっては、その悲しみや衝撃は計り知れません。
「あんなに笑顔だった〇〇さんが…」
「もっと私にできることはなかったのか…」
最も避けなければならないのは、この悲しみを新人がたった一人で抱え込んでしまうことです。
看取り離職を防ぐために必要なのは、「悲しみに負けない強さ」を教えることではありません。
「その悲しみを、組織全体で分かち合い、支え合う仕組み」を作ることです。
今回は、新人がお別れの悲しみの中で孤立せず、組織の温かさを感じながらケアを続けていくために、採用担当者と現場ができるアプローチを優しく解説します。
目次[非表示]
1. 【現状認識】「死」が日常から少し遠い世代への理解
まず前提として理解しておきたいのは、現代の学生や新人の多くは、「お別れ」の場面に立ち会う経験が少なくなっているという背景です。
かつてはご自宅で最期を迎えることが一般的でしたが、現在は病院や施設でのお看取りが主となり、核家族化も進んでいます。
そのため、多くの新人にとって、介護現場でのお看取りが「人生で初めて直面する、命の旅立ち」となることも珍しくありません。
心の免疫が少ない:
ドラマや物語の中でしか「死」に触れてこなかったため、実際の身体の変化や、お別れの瞬間の厳粛な空気に、言葉にできない不安や戸惑いを感じてしまいます。ご自分を責めてしまう:
「もっと気づいてあげられたら」「私がそばにいなかったから」という、優しさゆえの自責の念(サバイバーズ・ギルト)に深く沈んでしまうことがあります。
これは、新人が弱いからではありません。「命の重み」を真剣に受け止めているからこその反応です。だからこそ、「早く慣れなさい」と突き放すのではなく、組織としてその心を包み込む準備が必要です。
2. 【採用段階】入社前に「お別れ」をどう伝えるか?
採用面接や内定者研修の段階で、「楽しいこと」だけでなく、「お別れの寂しさと、そこに立ち会う尊さ」について触れておくことが、最初の心の準備になります。
ただ事実を淡々と伝えるのではなく、想いを共有することが大切です。
▼ 採用担当者が学生に伝えるべきメッセージ
人生の集大成を支える仕事:
「お看取りは『怖いこと』ではありません。その方が人生の幕を閉じる『最も厳粛で大切な時間』を、私たちが支えさせていただく、究極のケアなんだよ」と、仕事の尊さを伝えます。感情の共有:
「正直、私たちも毎回寂しいし、涙が出ることもあるよ。でも、みんなで想いを分かち合うから大丈夫」と、悲しみを一人で抱えなくていい環境があることを伝えます。「自分ごと」として考える時間:
内定者研修などで「もし自分が最期の時を迎えるなら、どんな人にそばにいてほしいか?」といったテーマで対話し、命について温かく考える機会を作ります。
入社前から「お別れ」をタブー視せず、その意味を一緒に考えられる関係性を作っておくことが重要です。
3. 【現場実践】初めてのお看取り直後の「グリーフケア」
実際に新人がお看取りを経験した直後が、最もケアが必要なタイミングです。
ここで大切なのは、「デスカンファレンス(お別れの振り返り)」の場を設けることです。
これは、業務的な反省会ではありません。職員の悲しみや想いを吐き出し、組織全体で共有する温かい場です。
▼ 新人の心を救う振り返りの進め方
× 業務の追及: 「なぜあの時、変化に気づかなかったの?」と詰問してしまうと、新人は「自分のせいで…」と追い詰められてしまいます。
◎ 感情の肯定: 「寂しいね」「驚いたよね」と、まずは湧き上がる感情を否定せずに受け止めます。
◎ ケアの承認: 「最期に〇〇さんが手を握っていたから、利用者様はとても穏やかなお顔だったね」と、新人が行ったケアが、利用者様の安らかな旅立ちに貢献した事実を言葉にして伝えます。
「あなたのケアは、ちゃんと届いていたよ」。
その一言が、新人の心の傷を癒やし、ここで働き続ける意味を見出す光となります。
4. 【組織文化】「乗り越える」のではなく「共に抱える」
かつての現場では、「プロなんだから利用者様の前で泣くな」「早く気持ちを切り替えて乗り越えろ」という指導も聞かれました。
しかし、心のケアの観点からは、「乗り越える(=無かったことにする)」ことを強いるのは、職員を孤独にする最大のリスクです。
組織として、以下のような温かい文化を育てていく必要があります。
悲しみは「共有」していい:
大切な方とお別れして悲しいのは、人間として当たり前のこと。その悲しみを無理に乗り越えようとせず、「寂しいですね」と言い合える関係性こそが、職員の心を守ります。リーダーの自己開示:
施設長やリーダー自身が「実は私も、〇〇様がいらっしゃらなくなって寂しくて、まだ気持ちの整理がつかないんだ」と素直な気持ちを話すことで、新人は「あ、ここでは一人で強がらなくてもいいんだ」と安心します。
「悲しみを無くす」のではなく、「悲しみを組織で分かち合う」。
そう思える職場は、職員にとっても利用者様にとっても、優しい場所になるはずです。
5. 【外部連携】専門的なケアはプロの力を借りる
お看取りが続く時期や、新人のショックが大きい場合は、現場のリソースだけで支えきれないこともあります。
無理に内部だけで解決しようとすると、支える側の先輩職員まで心が疲れてしまうリスクがあります。
そのような場合は、社外の専門的なサポートを頼ることも、大切な選択肢です。
グリーフケア研修の導入:
専門講師を招き、「命のプロセス」や「悲嘆のメカニズム」を学ぶことで、感情を客観的に見つめ直すスキルを身につけます。外部カウンセラーの活用:
上司には言えない本音を話せる第三者の窓口を設置し、心の重荷を下ろす場所を作ります。
専門家の力を借りることは、決して恥ずかしいことではありません。「職員の心を守ることも、法人の大切な責任」という、優しい姿勢を示すことになります。
まとめ:一人にしない。「悲しみ」を組織の絆に変えるために
新卒職員にとって、初めてのお別れはあまりにも重い体験です。
しかし、組織全体でその悲しみを共有できれば、その体験は「一人ではない」という安心感と、「命に寄り添うチームの一員になれた」という絆に変わります。
採用段階から「お別れ」の意味を伝え、覚悟ではなく「支え合う約束」をする。
現場では感情を肯定し、悲しみを否定せず「分かち合う場」を作る。
組織として、専門的な「グリーフケア」の仕組みを持つ。
こうした体制づくりこそが、職員の心を守り、長く活躍してもらうための鍵です。
「新入社員向けの『死生観・看取り研修』を導入したい」
「現場リーダー向けに、悲しみを共有するファシリテーション研修を行いたい」
「職員のメンタルヘルスケアの体制を整えたい」
そのようにお考えの採用担当者様、施設長様は、ぜひ一度私たちにご相談ください。
職員の心を優しくケアし、組織の定着力を高めるためのサポートをさせていただきます。
■ [お問い合わせはこちら:教育研修・定着支援に関するご相談受付中]








