
「背中を見て覚えろ」はなぜ通用しない?認知科学が教える、OJTが機能不全に陥る構造的欠陥
【この記事を読んでいただきたい方】
教育も大切な業務だと理解しつつ、「現場の時間がない」というジレンマに悩む教育担当者
新人の立場に立って教えているつもりなのに、「なぜか伝わらない」ともどかしさを感じている現場リーダー
「教育のリソース(時間・労力)」を最適化し、成果を出したい経営層
所要時間:約5分
はじめに:現場の「教えたい」という想いが空回りしていませんか?
教育・研修担当者の皆様、現場でのOJTは順調でしょうか?
多くの現場社員は、「教育も自分の重要な業務だ」と責任感を持って取り組んでくれています。しかし、その責任感とは裏腹に、現場からは悲鳴に近い声が聞こえてきます。
「一生懸命に見せているのに、全然仕事を覚えない」
「新人の気持ちになって説明しているつもりなのに、伝わらない」
これは、現場の「教える気」がないわけでも、新人の「やる気」がないわけでもありません。
実は、「実務をこなしながら教える(OJT)」というスタイル自体が、認知科学的に見て「構造的な難しさ」を抱えているのです。
本記事では、なぜ「背中を見て覚えろ」が今の時代に通用しにくいのか。その理由を認知科学(Cognitive Science)の視点から紐解き、限られた「教育リソース」を最大活用するための解決策をご提案します。
目次[非表示]
1. 認知科学の視点 - なぜ新人は「背中」を見ても処理落ちするのか?
「先輩の背中を見て盗む」。
これは、かつては有効な学習法でしたが、情報量が爆発的に増えた現代の業務においては、新人にとって過酷な学習法です。
ここで重要になるのが、認知科学における「スキーマ(Schema)」という概念です。
スキーマとは、脳内にある「知識の整理棚(枠組み)」のことです。
ベテランの脳(スキーマ完成済み):
脳内に整理棚があるため、「顧客対応」を見ながら「PC操作」をしていても、「あ、今は顧客情報の入力をしているんだな」と、情報を瞬時に整理・収納できます。新人の脳(スキーマ未形成):
整理棚がありません。その状態で先輩のマルチタスクを見せられると、脳内は「情報の洪水」になります。「電話しながらメモを取った」という動作は見えても、「なぜそうしたのか」という思考プロセスまで情報処理が追いつかないのです。
つまり、新人が育たないのは、見る気がないからではなく、「脳の整理棚(スキーマ)」がない状態で、大量の情報を浴びせられ、処理落ち(フリーズ)している状態なのです。
2. 構造的欠陥 - なぜベテランは「新人の立場」に立てないのか?
「新人の立場になって教えよう」。
OJTではよく言われる言葉ですが、実はベテラン社員にとって、これは脳の構造的に極めて困難な作業です。
心理学には「知識の呪縛(Curse of Knowledge)」という言葉があります。
人は一度知識を身につけてしまうと、「それを知らなかった頃の状態」を想像することができなくなるという認知バイアスです。
新人の視点: 「この専門用語の意味が分からない…」
ベテランの視点: 「こんなの常識だろ?(なぜ分からないのかが、分からない)」
優秀な社員であればあるほど、業務の手順が「自動化(無意識化)」されています。
自転車に乗れる人が「どうやってバランスを取っているか」を言葉で説明できないように、「自分が無意識にやっていること」を言語化して教えることは、非常に高度なスキルなのです。
現場の先輩は、意地悪で教えていないのではありません。
「自分には当たり前に見えている景色が、新人には全く見えていない」というギャップに気づくことが、構造的に難しいのです。
3. 解決策 - 「教育リソース」の最適配分
教育は業務の一部であり、投資です。
しかし、現場が使える「リソース(資源)」には限りがあります。ここで言うリソースとは、「時間」だけではありません。
【教育に必要な3つのリソース】
時間的リソース: 業務時間そのもの。
認知的リソース(脳のエネルギー): 「どう教えれば伝わるか」を考え、工夫する集中力。
感情的リソース(忍耐力): 何度も同じことを聞かれたり、ミスをフォローしたりする精神的な余裕。
全てを現場のOJTだけで賄おうとすると、これらのリソースが枯渇し、通常業務(売上を作る仕事)に支障が出ます。これが「OJTの共倒れ」です。
賢い組織は、このリソースを最適に配分します。
挨拶、マナー、基本の思考法など(汎用スキル):
これらは誰が教えても同じです。現場の貴重な「認知的・感情的リソース」を使わず、プロ(外部研修)に任せます。その現場特有の実務・判断基準(専門スキル):
これこそが、現場社員にしか教えられないことです。外部リソースを活用して浮いた「時間とエネルギー」を、ここだけに集中投下します。
「教育も業務だから全部やれ」ではなく、「現場のリソースを『実務指導』という最も重要な業務に集中させる」ために、外部やツールを活用するのです。
4. アクション - 「新入社員受け入れ研修」で土台を作る
現場の負担を減らし、新人が育つ環境を作るためには、配属前の「土台作り」が不可欠です。
OJTが機能不全に陥る前に、以下の2つのアプローチを検討してください。
新入社員研修(新人向け):
配属前に「スキーマ(知識の棚)」を作っておくこと。基本的なビジネス用語やマナー、仕事の進め方をインストールしておくことで、現場で「背中を見た時」の吸収率が劇的に変わります。受け入れ研修(現場指導者向け):
指導者が「知識の呪縛」を自覚し、言語化する技術を学ぶこと。「感覚」ではなく「論理」で教えるスキルを身につければ、指導時間は短縮されます。
まとめ:現場の「善意」に頼らず、「仕組み」で勝たせる
本記事では、OJTの難しさを現場の責任にするのではなく、「脳の仕組み」と「リソース配分」の問題として解説しました。
【今回の要点】
スキーマの欠如: 新人は「整理棚」がないため、見て覚えることができない。
知識の呪縛: ベテランは「初心者の気持ち」を想像するのが脳の構造的に難しい。
リソースの最適化: 現場の貴重な脳と時間は「実務指導」に集中させ、基礎は外部に任せる。
教育は重要な業務です。だからこそ、現場社員の「善意」や「個人のスキル」だけに依存してはいけません。
会社として、現場が教育しやすい「仕組み(サポート)」を提供することこそが、教育担当者の最大の価値発揮です。
「現場の指導者にも、教え方の基礎を学ばせたい」
「配属前に、新人のマインドとスキルを整えておきたい」
もし貴社がこのような課題をお持ちでしたら、ぜひ当社の「新入社員研修」および「新入社員受け入れ研修」をご検討ください。
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