
「ES選考」はもう時代遅れ?AI時代に「会うべき人材」を逃さない選考設計論
生成AIの普及でエントリーシート(ES)によるスクリーニングは形骸化してきました。ESに代わる有効な見極め手法とは?適性検査の早期導入や動画面接など、AI時代に「会うべき人材」を確実にグリップする選考改革を解説。
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【はじめに】その書類選考、本当に「人間の能力」を見ていますか?
「数百枚のエントリーシート(ES)を読み込んだが、どれも金太郎飴のように同じ内容だった」
「書類選考で落とした学生の中に、実は優秀な原石がいたのではないか?」
「面接に進んだ学生が、書類の印象と全く違ってガッカリした」
生成AI(ChatGPT等)が就活の「必須ツール」として定着した今、多くの採用担当者が、従来の選考プロセスに対してこのような「構造的な限界」を感じ始めています。
かつて、ESは学生の「論理的思考力」や「志望度の高さ」、そして「文章構成力」を測るための有効なフィルターでした。しかし、今やAIを使えば、誰でも論理的で、誤字脱字がなく、熱意あふれる美しい日本語の文章を数秒で生成できてしまいます。
これは何を意味するのでしょうか。
それは、「文章の綺麗さ」で足切りを行う従来の選考スタイルが、完全に機能を失ったということです。
AIが書いた「減点のない完璧な書類」を通過させ、自分の頭で一生懸命考えた「少し不器用な書類」を落としてしまう。これこそが、現在の採用現場で起きている最大の「機会損失(ミスマッチ)」です。
今回は、AI時代において形骸化した「ES偏重」の選考プロセスから脱却し、真に自社にマッチする「会うべき人材」と出会うための「選考フロー改革(プロセス・リエンジニアリング)」について、具体的な手法と導入ステップを徹底解説します。
■ 第1章:なぜ、ES選考は「ザル」になってしまったのか
対策を講じる前に、まず「なぜ従来のES選考が通用しないのか」を論理的に理解する必要があります。
それは、ESが評価の軸としてきた能力が、AIの得意分野と完全に重複してしまったからです。
これまでの選考基準と、AI時代の現実を比較してみましょう。
この表から分かるように、ESだけで学生の能力を測ろうとすることは、AIの性能テストをしているようなものです。
さらに深刻なのは、「AIリテラシーの高い、要領の良い学生(=ES完璧)」と、「真面目で実直だが、AIを使わない学生(=ES拙い)」を比べた時、前者が圧倒的に有利になってしまう点です。
もちろん、ビジネスにおいてAI活用能力は重要です。しかし、私たちが採用したいのは「AIを使えるだけのオペレーター」ではなく、「AIには出せない答えを出せるリーダー」のはずです。
これからの選考設計に必要なのは、評価軸を「AIが介入できない領域」へ大胆にシフトさせることです。
■ 第2章:脱ES。AI時代に導入すべき「3つの代替フィルター」
ESでのスクリーニングが限界を迎えた今、初期選考(母集団形成〜一次選考)で何を導入すべきか。
採用総研では、貴社の課題に合わせて、以下の3つの手法への切り替えを推奨しています。
1. 「適性検査(性格・価値観診断)」のフロント導入
多くの企業が適性検査を「面接の直前」や「最終確認」に使っていますが、これを「説明会などの序盤」に前倒しします。
AIは文章を作れますが、性格診断の結果を完全に偽装することは困難です。多くの適性検査には「ライスケール(虚偽回答の検知機能)」が備わっており、自分を良く見せようと矛盾した回答をするとアラートが出ます。
「文章が上手いかどうか」ではなく、「自社のカルチャーに合う資質(コンピテンシー)を持っているか」を科学的なデータで判断し、マッチ度が高い層を優先的に次のステップへ案内する。これにより、面接官は「性格的に合いそうな学生」との対話に時間を割くことができます。
2. 「動画面接(自己紹介動画)」の活用
ESの代わりに、「30秒で自己PRをしてください」「最近一番悔しかったことを話してください」という動画をスマホで撮影して提出させます。
話す内容(スクリプト)自体はAIで作れます。しかし、以下の要素はAIでは生成できません。
表情の豊かさ、目の輝き
声のトーン、抑揚、話し方の間
醸し出す雰囲気、清潔感
テキスト情報では削ぎ落とされてしまうこれらの「非言語情報」こそが、AI時代における最も信頼できる判断材料になります。「会ってみたら全然違った」という面接の無駄打ちを劇的に減らす効果もあります。
3. 「リアルタイム・オンデマンド課題」の実施
自宅で時間をかけて作るESではなく、説明会直後や選考会場(あるいは監視付きのWebテスト環境)で、制限時間内に課題に取り組ませます。
「今の説明会の内容を踏まえて、当社で挑戦したいことを300字で書いてください(制限時間10分)」
「このトラブル事例に対して、あなたならどう対応するか回答してください(制限時間15分)」
「今、この場で考えてください」という状況を作ることで、AIという補助輪を外した「素の思考力」や「瞬発力」を見極めます。
■ 第3章:選考フローを「守り」から「攻め」へ変える
ここまでは「変な人を入れない」ためのスクリーニングの話でした。
しかし、選考プロセス改革にはもう一つ、非常に重要な視点があります。それは、「優秀な人材を逃さない(アトラクトする)」という視点です。
優秀な学生ほど、選考プロセスを通じて企業を値踏みしています。「ESを書かせるだけの旧態依然とした企業」や「AIで書いたような定型文の返信しか来ない企業」を、彼らは敏感に感じ取り、見限るスピードが早くなっています。
ここで意識すべきキーワードが「CX(Candidate Experience:候補者体験)」です。
1. 「リードタイム」の短縮が勝負を決める
AIを使う学生は、複数の企業に同時にエントリーし、高速で選考を進めます。
「ES提出から結果連絡まで2週間」もかけていては、その間に他社の内定承諾をしてしまいます。
適性検査の結果で即時に合否判定を出す
日程調整ツールと連携し、合格通知と同時に面接予約を完了させる
このように、「鉄は熱いうちに打つ」スピード感のあるフロー設計自体が、「この会社は意思決定が早い」「DXが進んでいる」という魅力付けになります。
2. 「フィードバック」で差別化する
AIによる自動判定が進む中で、学生が最も飢えているのが「人間からのフィードバック」です。
選考の各フェーズで、「あなたのここが良かった」「ここはもっとこうすると良い」というフィードバックを少しでも返すこと。これは手間がかかりますが、AI選考が主流になるこれからの時代において、最強の差別化要因になります。
「自分のことをちゃんと見てくれている」という信頼感は、最終的な内定承諾率に直結します。
■ 第4章:あなたの会社の「選考フロー健全度」診断
御社の現在の選考フローは、AI時代に対応できていますか?
以下のチェックリストで、現状を診断してみてください。
▼ AI時代における「選考プロセス」自己診断リスト
【1】スクリーニングの手法
[ ] 志望動機の文字数(400字など)や文章の綺麗さだけで合否を判断していない
[ ] ES提出前に、会社説明動画や適性検査で「自分に合うか」を学生に自己判断させている
[ ] 面接官個人の感覚だけでなく、客観データ(適性検査等)を評価に組み込んでいる
【2】学生への負担とCX(体験)
[ ] 一次面接までのリードタイム(期間)を短縮するシステム導入や工夫をしている
[ ] 学生に「同じ内容」を何度も入力・提出させていない(履歴書とESの重複など)
[ ] 不採用通知(お祈りメール)がAIのような定型文になっていない
【3】評価軸の転換
[ ] 「文章の綺麗さ」よりも「行動の事実(何をやったか)」を重視している
[ ] オンラインだけでなく、対面やリアルタイムで判断する場を設けている
もしチェックが入らない項目が多い場合、御社の選考フローは「AIを使う学生には突破されやすく、本当に欲しい優秀な学生からは敬遠されやすい」という、最悪の状態になっている恐れがあります。
■ 第5章:改革のステップ。まずは「捨てる」ことから
いきなり全てのフローを変えるのは難しいかもしれません。
まずは、小さな一歩から始めましょう。
STEP 1: 「無意味な記述」を廃止する
「自己PR」「志望動機」などの長文記述をESから削除し、その分を「適性検査」や「履歴書(事実情報)」の確認に充ててください。これだけでも工数は大幅に減ります。
STEP 2: 面接の冒頭5分を変える
面接でESの内容をなぞる確認作業をやめ、「ESに書いていないこと」を聞く質問からスタートしてください。
STEP 3: 「動画面接」を試験導入する
まずは希望者のみ、あるいは特定の職種のみで動画面接を導入し、実際の学生の雰囲気と面接評価の相関を見てみてください。
■ まとめ:選考とは「ジャッジ」ではなく「相互理解」である
AIの登場は、私たちに「選考とは何か」を問い直す良いきっかけを与えてくれました。
これまでは「大量の学生を効率よく捌く(ジャッジする)」ためにESが使われてきました。しかし本来、選考とは企業と学生の「相互理解(マッチング)」の場であるはずです。
AIで作られた美辞麗句の書類を読み込む時間をゼロにし、その分を「学生の素顔を見る時間(動画面接や対話)」や「自社の魅力を伝える時間(フィードバック)」に充てること。
それが、結果としてミスマッチを減らし、早期離職を防ぎ、採用成功への近道となります。
「ESを廃止するのは勇気がいる」
「適性検査をどう活用すればいいか分からない」
「自社に合った選考フローを設計してほしい」
そのようなお悩みをお持ちの企業様は、ぜひ株式会社採用総研にご相談ください。
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